産業保健調査研究

―平成12年度 産業保健調査研究報告―定期健康診断の事後措置に関する調査

  • 主任研究者
    滋賀産業保健推進連絡事務所相談員(産業医学)
    上田 伸治、木村  隆
  • 滋賀産業保健推進連絡事務所所長
    杉本 寛治
  • 滋賀産業保健推進連絡事務所相談員(カウンセリング)
    鎌田 久美子
  • 共同研究者研究協力者
    滋賀産業保健推進連絡事務所相談員(保健指導)
    長澤 孝子
  • 松下電器産業株式会社エアコン社産業医
    寺澤 嘉之
  • 大津市医師会理事 
    饗庭 昭彦
  • 東レ株式会社滋賀事業所産業医 
    中西 一郎
  • 松下冷機株式会社冷蔵庫事業部産業医 
    塩見 祐子
  • 京セラ株式会社滋賀工場産業医 
    辻川 紀恵
  • (財)近畿健康管理センター健康管理医  
    金沢 裕一
  • 東レ株式会社滋賀事業所産業医
    松井 春彦

目的

滋賀県における事業所総数は39,254社(民営)で、その内50人以上規模事業所は1,288社(3.3%)であり、事業所のほとんどは小規模事業所である(総務庁統計局「平成8年度事業所統計調査報告書」)。これまで滋賀県の事業所における労働安全衛生活動はかなり活発に行われてきている。昭和47年労働安全衛生法の制定以前から、医師会を中心として事業所健康診断事業を推進したり、滋賀県産業医会を発足させ、産業医の教育研修に力を注いできた。その結果でもあろうが、現在も安全衛生に対する意識は高い方であると考えられ、最近の定期健康診断有所見率は38.7%と、全国平均を大きく下回っている(平成11年度)。一方、周知のように平成8年の労働安全衛生法の改正において定期健康診断の事後措置が示されたが、その実施状況については、現在のところ全く分かっていない。そこで我々は、滋賀県下の事業所における定期健康診断に関する産業保健活動の実態を明らかにすることを目的として、50人以上規模の事業所における定期健康診断およびその事後措置の実施状況について、アンケート方式により調査を行った。

対象

調査対象とした産業医は滋賀県医師会に登録されている日医認定産業医506名、産業看護職は滋賀産業保健推進連絡事務所で組織している産業看護研究会の会員113名、衛生管理者は滋賀県内にある100人以上規模の613事業所の衛生管理者(健康管理担当者)である。

方法

対象者それぞれに自記式アンケートを郵送した。回答は無記名とし、同封の返信用封筒にて返送して頂いた。産業医については、一人で複数の事業所で業務をしている場合には、それぞれの事業所の状況について回答してもらった。なお、産業医と産業看護職に対しては個人当てにアンケートを郵送したが、衛生管理者に対しては事業所に衛生管理者宛てとして発送した。アンケートは今回の調査のために独自に作成したもので、事業所の規模、業種、産業保健スタッフそれぞれの雇用形態、定期健康診断の受診率、結果判定の実施と通知、再検査や精密検査の実施、保健指導の実施、要治療者の医師受診、就業上の措置、健康診断結果の統計資料の作成などの状況について質問した。また、各健康管理担当者の認識の違いを浮き彫りにするために、それぞれの担当者にはほぼ同一の質問を行った。

結果

①アンケートの回収率は、産業医は24.3%、看護職と衛生管理者は約6割であった。(表1)

表1 各回答者ごとのアンケートの回収率

産業医 看護職 衛生管理者
回答者数(%) 123(24.3) 69(61.9) 350(57.1)

*産業医は複数事業所に勤務している場合があり、事業所数としては216事業所分の回答が得られた。

②回答者の所属事業所は、産業医と衛生管理者は小・中規模、看護職は中・大規模であった。(表2)

表2 各回答者が所属する事業所の規模

従業員規模(人) 産業医 看護職 衛生管理者
50-99 35.7% 0% 3.7%
100-299 40.7% 17.4% 71.4%
300-499 9.7% 15.9% 11.4%
500-999 6.5% 23.2% 9.2%
1000人以上 6.5% 42.0% 4.3%
無回答 0.9% 1.5% 0%
100% 100% 100%

③健康診断の実施については全般的に良好であった。(表3)

表3 健康診断実施状況

産業医 看護職 衛生管理者
全法定項目実施 90.3% 98.6% 95.1%
保健指導実施率 81.5% 92.8% 88.9%
勤務時間内
の健診実施
91.8% 98.6% 98.0%
判定実施 98.1% 100% 100%
結果通知 93.5% 98.1% 98.3%

④事後措置等の実施状況について「わからない」と答えた者の率を見ると看護職では少なく、産業医では特に多かった。(表4)

表4 各種実施状況が「わからない」と答えた率

産業医 看護職 衛生管理者
再検・精検実施率 25.5% 2.9% 15.4%
保健指導実施率 26.3% 5.0% 11.8%
要治療者の
医師受診率
44.9% 4.3% 30.3%
就業上の
措置の実施
25.0% 2.9% 9.1%
統計資料の作成 19.0% 2.9% 4.9%

⑤看護職の90%を占める常勤者の回答から事後措置等の実施状況を観察した。いずれも事業所規模が大きくなるにつれ実施率が高くなる傾向を示したが、1000人以上の規模では500-999人規模よりも低くなる項目が多かった。保健指導の実施状況は、他の事項に較べて実施率が低かった。(表5)

表5 事後措置等実施状況(常勤看護職の回答より)

事業所規模(人) 100-299 300-499 500-999 1000-
再・精検実施率 75%≦ 63.6% 66.7% 64.3% 57.7%
保健指導対象者率25%≦ 36.4% 55.6% 50.0% 61.5%
保健指導実施率75%≦ 27.3% 44.4% 71.4% 57.7%
要治療者医師受診75%≦ 36.4% 66.7% 85.7% 34.6%
統計作成及び活用 90.9% 77.8% 92.9% 69.2%
就業上の措置実施 72.7% 77.8% 92.9% 92.3%

*保健指導対象者率=保健指導対象者数÷健診受診者数
*保健指導実施率=保健指導実施者数÷保健指導対象者数

考察

今回の調査の結果、労働安全衛生法に基づいた定期健康診断の実施についてはほぼ満足いく状況であることが分かった。
 産業医と衛生管理者は、看護職に比べて事後措置の実施状況を把握していない者が多かった。このことは、①三者の連携が不十分、②実務的には看護職が中心的存在、③産業医や衛生管理者が主体的に健康管理に関わっていない可能性、などを示唆する。事後措置の実施については、小規模な事業所ほど実施率は低い傾向にあったが、1000人以上の大規模事業所で最も充実しているというわけではなかった。今回は保健婦や産業医一人当たりの従業員数を調査していないが、1000人以上の規模の事業所ではその数が大きい可能性がある。就業上の措置の実施は比較的小規模の事業所においても高い実施率であった。今回の調査からはどの程度の健康障害でどのような就業上の措置が行われているかは不明であるが、健康を害した者に対して配慮がなされる事業所が多いことは評価できる。一方平成8年の法改正で努力義務とされた保健指導の実施率は就業上の措置の実施率と比べて低かった。保健指導の対象者が比較的軽度の有病者や健康者であることを鑑みると事業所における健康障害の予防意識はまだ十分には高くない事が示唆される。
  以上の結果を踏まえて、当連絡事務所では産業保健を担当する三者へのサポートプログラムを更に充実させ、滋賀県の産業保健の発展に今後益々貢献する所存である。